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怪談で『牡丹灯篭』というのがある。

三遊亭円朝が割と早い時期から演目に入れ出したので、元は『剪灯新話』という中国明代の怪異譚のうち『牡丹灯記』というものを翻案し換骨奪胎作り直したものがそれである。

以下は内容にも触れるので

この『牡丹灯篭』、良く知られているのは幽霊の『お露』と新三郎の悲恋話であるが、実際に頁を繙くと幽霊話は割に少なく、序段はお露の父の大見得の場面から入り段々に新三郎の話にはなるが、間に忠義者の草履取りとお露の父平左衛門の話を挟みながら、隣家の供蔵の話へと因果の巡りが移って言くのだから、連環体に似たおもむきがあるけれど、どうも歌舞伎や講談の因果話は、「巡り巡って」が軸になっているものだから、こういう流れで進むものは多い。
日本の話と言うのはこのような横に横に移り変わって行くようなものが割に多く、幸田露伴などはよくせきそのことに頭悩ませた、と言うかなにかを見つけたようで連環体と言うものを駆使しようとしていたこともあった。また泉鏡花の婦系図なんかもはっきりと連環体とは言われぬにしても「話が転がって行く」というよりも「スライドして行く」というようなところがある。
全然つながりがなさそうな話に見えて実は繋がっていると言う工夫が多いのが特徴である。

さておき、牡丹灯篭であるが、この原案は中国の明時代のもので、商人の力が非常に伸びて来た時だから文物が大変に栄えたそうで、名作傑作が多いそうだ。
浅学にして名を挙げるには、精々、金瓶梅くらいのものだが、それにしたって白眉の一筆がここにあるという証左にはなろう。
そういうわけで、この牡丹灯篭も傑作の一つとして伝わっている。

で、実は三遊亭円朝の方と少し話が違っている。

落語の方では、こういう形だ。
新三郎が梅見に行き、梅見茶屋でお露を見初める。
お露が焦がれ死ぬ。
死んだと聞かされるが、ひょいと見ると家の前にお露の侍女がいる。
侍女が驚いて「新三郎様は死んだと聞いていた」「こちらもそうだ」ということで、二人の仲を裂くためにそのような嘘が言われていたに違いない、となる。
逢い引きの場、それを隣家の供蔵が覗き見ると、なんと新三郎が抱き合っているのは骸骨。
和尚からお札をもらって貼っておくが、お露の霊が供蔵のところへ……と言う具合。

一方で、源話は少々違って主人公は寡夫である。
で、灯篭祭りの日に通りかかった麗という美女を見初めて、うちへ誘い男女の営み、それを隣家の年寄りが怪しんで半月後に覗いてみると、男は骸骨といちゃついている。
それで道士を呼んで札を貼るが、もういいだろう、と気楽になった男がつい知らぬ間に麗のいる寺に行ってしまい、取り殺される。

という話である。

中国の方が怪談話としては怪談らしいもので、人情よりも「美女の幽霊」の話になっているから、三遊亭円朝の改作はまこと甚だしいものである。
だから、あまりこの両者を並列しても意味がないのかもしれないな、と思う。

ところで、古今亭志ん生のCDで「怪談阿三の森」という演題のものが入っているのだが、これがまったく牡丹灯篭とそっくりなのである。
名も新十朗と、七つばかり増えているだけ。
どうも余程でないとやらない演目のようで、あまり見かけない。
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