夏の人

夏になる。
はやいなぁ。

夏は少年の季節だ。いつ頃からか、そういう感じがある。
植物の背は一年で一番高くなる。
ひまわりは太陽を追いかける。
夏の野菜……スイカ、キュウリ、みずみずしい。

氷を入れたグラスに麦茶を注ぐ。団扇で扇ぎながらドラクエをしていると、いつの間にか畳に麦茶の汗が輪になっている。

まだ五時にもならないうちからシャワーで汗を流す。
焼けた肌が痛い。

夏は夏の音がする。
風鈴、蝉、飛行機、遠雷、夕立、地を這う虫達。
アスファルトに水がじりじりいう音。
熱くってぼうっとしている時の水蒸気が空気にまじる音。

ワイシャツの背中がピタッとくっついている。
部活帰りの女子中学生、早く家に帰りたそう。
いつもより遅くまで遊んでいる小学生達とすれ違う。
夏は七時過ぎまで明るいから。

蚊取り線香……最近は、少なくなったけど……あのにおい。
あの煙。
煙草をくわえて、紫煙をすーっと上げて、ディスプレイを見ている。
ノスタルジアは止まらない。



夏の暑さの対処法。
一つ。
フェラ・クティだとかアフロビートの曲、カリプソ、ソカ、マリアッチ、ああいう暑そうな地方の曲を聴く。沖縄の民謡だとかも手だ。
二つ。
うっとうしい話はしない。それから繰り返すようなことはしない。
三つ。
ビール。もしくは薄いワイン、僕のおすすめ。普通のワインをコーヒーポッドのようなところに半分入れて沢山の氷を投入、水を入れる。ワイン１に水１くらいだ。非常に薄味でゴクゴク飲める。
四つ。
ケーキなんかについてくる保冷剤をとっておいて、あれを二三個タオルに巻いて首に巻く。
五つ。
ツール・ド・フランスを見る。これに勝るものはない、昼も夜も暑いのさえ楽しくなる。
六つ。
悟りを開く。心頭滅却すれば火もまた涼し。アタラクシアへ到るべし。
七つ。
シャワーを浴びてクーラーの効いた部屋でコーヒーを飲みながら一服。……これは奥の手。



怪談話、夏の風物詩だ。
僕が子供のころは恐い話と言うのがどうしてもダメだった。
妖怪と言うのは平気なものもあったが、幽霊はダメだった。
だって、妖怪は怨念が無いけど、幽霊は怨念があるでしょう、あれがきっと怖かったのだろう。

夏の夕暮れ。
逢魔ヶ時、如何にも妖怪の出そうな時間だ、夏は夕が長い。
かくれんぼうを夕方にしてはいけない。
「隠し神」に隠されてしまう。
……かくれんぼうをしていて、どうしても一人見つからない時は、隠し神に隠されたのである。
「神隠し」というやつだ。

逆に顔が段々あやふやになって来る時刻に一人増えていることがある。
みんな知りあいで名前もどこの子かもわかるのに、一人多い。
五人で遊んでたのに六人になっている。
でも全員最初からいたような気がする、誰が増えたかわからない。
こういう場合は「座敷ボッコ」とか「座敷童子」というのが加わったのだ。
その日別れて、また翌日に五人の子供達が集まっても、誰が増えていたのか、結局わからない。
六人目の名前も顔も思い出せないのだから。
もしかしかしたら、誰かと座敷ボッコが入れ替わっていることもあるかも知れない。

夏祭り。
小瓶にウィスキーを詰めてふらりと行く。
子供達も浴衣を着ている。
成年の浴衣は少々格好悪い、大きなボッちゃんジョウちゃんみたいな感じだ、着方が悪い。
ちょっと大通りを避けると山の方へ行く小道がある。
賑やかなところから非難。
階段にお面が並んでいる。
無論、狐、火男、なんていうのは今は無く、ピカチュウとかプリキュアとか。
パッと子供がすり抜けて、そのお面を取った。
二人ともお面を着けて階段を駆け上がった。
が、途中で止まった、「わーっ！」と叫びながらピカチュウとアクアが降りて来る。
山の方には何も無い。
何も無いから怖くなったのだろう。
僕も仮面を付けて山を駆け上がりたくなった。
途中で引き返して、戻って来るかどうかはわからないけど。